オイカワ・カワムツの釣りは意外と特殊?
釣りを始めたばかりのとき、細いラインで魚を釣るのは意外と難しく感じますよね。慣れないうちは結束に要する時間は長くなりやすく、結び方ひとつ最終的な釣果に影響が出ることもあります。
そんなときに覚えておきたいのが「ユニノット」。簡単に結べるのに強度もしっかりあり、初心者でも安心して使える結び方です。ちょっとしたコツさえ押さえれば、フィールドでもスムーズに結べるようになります。
今回は、そんなユニノットについて、ストーリーでやさしく紹介したいと思います。
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朝の光が川面をゆらゆらと照らしていた。早朝の風は穏やかで、南風を受けて水面には小さな波紋がいくつも広がっている。オレは河原に腰を下ろし、0.6号のラインを指先でつまみながら息をつめていた。
「クリンチノットができない!?」
孤立無援の河原。思った以上に難しいのだ。
ユニノットのススメ
みんなができる結び方のはずだが……
マルカンに糸を通すまではいい。だが、ラインを捻ろうと思っても相手はハリスルアーのように自重で回ってくれない。強くなり始めた夏風に翻弄されながら何とか絡みつけると、柔らかく細い道糸が作り出した輪は思ったよりも小さくなってしまっていた。
ここにラインの端を通そうとするのだが、小さくなって消えかけた輪に四苦八苦する。なんとか通せても、二つ目の輪に行くころにはもう指がつりそうになる。
「くそ……」
小さく声を漏らしても、状況は良くならない。
締め込むときはさらに面倒で、スルスルとゆっくりと綺麗に滑らせなければならない。がむしゃらに引っ張れば、ラインに大きなヨレができてしまう。
なるほど、ルアーならそれでもいいだろう。常に引っ張られているから、多少のヨレなんて誤魔化せる。けれどウキ釣りは違う。糸がヨレればハリに起きた反応を通す道が遠回りになる。ウキの反応がほんのわずかに遅れれば、チャンスを逃すことになるのだ。
「うーん……こまった!」
思わず声をあげた瞬間、上流の方で羽音がして灰色の影がスッと降りた。アオサギが瀬の脇に着地する。ドロンと霞が舞い、姿を変えた。そこに立っていたのは釣り姉だった。
「釣り姉!? ちょっと助けて!」
オレが必死の表情を浮かべると、彼女はニヤリと笑った。
「あはは、何事も慣れだよ!」
川の小物釣りの糸は繊細
太陽が少しずつ高くなってきた。
川面にきらきらと反射する光が増え、流れの中に漂う小魚の影が、あちこちで走っている。
だが、オレは指先のヨレたラインを見つめながら、もう一度ため息をついた。
「そんなこと言ったって……みんながやっている結び方のはずなのに、どうしてこんなに難しいんだろう?」
「まぁ、練習次第でうまくなるさ! ……と言えばそれで終わりだけど、正直な話、はっきり言う人は少ないけど、結び方でもラインの太さや種類によって向き不向きってあるんだよなぁ……」
声が川風に乗って響くと、カワセミが目の前を通過していった。釣り姉は河原の砂の上にしゃがみ込み、稚魚が泳ぐ浅瀬の先をぼんやりと眺めながら言った。
「そもそも、オイカワやカワムツ、ウグイの餌釣りで使うラインって、ちょっと細すぎるって思わないかい?」
「でも、ネット上じゃ0.2~0.4号のハリスに、0.6~1号前後の道糸って書いてあったけど」
オレが反論めいた声を上げると、釣り姉はクスクスと笑った。
「あたし、大昔にカン付き鈎に1.5号のナイロンラインを付けて餌釣りをしたことがあるけど、問題なく釣れたこともあるんだぜ? だから、慣れないうちは1ランク太めの糸が、あたしとしてはお勧めだな」
「でも、練習しないとうまくならないって釣り姉が言ったんじゃん?」
「アハハッ! そうだった、そうだった!」
釣り姉は苦笑いしながら、麦わら帽子を軽く押さえた。アシの葉をサラサラと音を立てながら、南風が通り抜けていく。
「でな、この釣りはちょっと特殊でな、0.3号のハリスと最小0.07gのオモリでウキ下をフカセる釣りなんだ。他の釣りでは常識でも、うまくいかないこともあるさ!」
釣り姉の声は淡々としていたが、その裏には実感がこもっていた。たぶん、何度も同じように苦労したことがあるのだろう。その彼女は突然立ち上がると、オレの目を見て、にやりと笑って言った。
「となれば繊細なラインでも、ヨレができづらい結びが必要になる。――そこで、ユニノットさ」
「ユニノット?」
「そう。すごく簡単な結び方さ」
釣り姉はポケットから短いラインを取り出し、指先でゆっくりと動かし始めた。
結束強度はユニノットで大丈夫?
「簡単? それで強いの?」
オレが眉をひそめて尋ねると、帽子を外していた釣り姉の額が陽の光を受けて細く光った。
彼女は目の上に手でひさしを作り、頭上を見上げながらゆっくりと笑った。
「いや、強いほうではないよ」
「じゃあ、ダメじゃん?」
「ウハハ、それがだな。簡単だから正しく結べるし、結果として強度が強くなりやすいんだ」
その言葉は意外だった。強い結び=複雑、という先入観があったのだ。
でが……
「本当に簡単な結び方で大丈夫なの?」
「そもそも、この釣りでは相手は小魚。かかる力も小さいし、衝撃は長くて柔らかい延べ竿がすべて吸収してくれる。結束強度が多少低くても、トラブルは出づらいんだ。それより、繊細な糸を癖なく結べる方がずっといい」
釣り姉はそう言いながら、今度は流れに目をやった。水面には水紋がいくつも生まれ、陽射しを受けて影が差し込み、青と濃紺の花火のように輝いていた。
「それに、簡単な方がフィールドで結びやすいだろう?」
その声は柔らかく響いた。
確かに、風が吹く河原で細糸を扱うのは一苦労だ。指先の感覚は思うように利かず、わずかなミスでヨレができる。
――なるほど。
だが、それでもどこか不安は残る。
その気持ちが顔に出ていたのか、釣り姉は「ふふっ」と笑った。
「そうだねぇ……たとえば、でっぷり太った二十センチ前後のウグイを、0.6号の道糸と0.2号のハリスで上げたことがあるよ」
「意外と……大丈夫なんだ」
正直、驚いた。そんな細い糸で二十センチを取れるなんて、信じがたい。
「まぁ、延べ竿の力もあるけどね。ユニノットの結束強度は60%程度なんだけどさ、結局は“結束強度”というからには、糸そのものの強さも含まれるからね」
ユニノットの結び方
「というわけで、ここからは結び方だ」
釣り姉が少し身を乗り出した。
その瞳には、どこか師匠めいた光が宿っている。オレは無意識に背筋を伸ばした。
「まずは、サルカンやマルカン、ルアーのアイなどを左手で持ち、結びたい金属の穴にラインを通して、そのまま二十センチぐらい伸ばす」
「次に、Uターンして輪を作りながら、金属の穴から十センチぐらいのところまで戻る。画像だと戻しているだけだけど、実際には戻したところを左手の指で押さえておくんだ」
「そのまま、四~六回、二本のラインを巻き込むように、右手で巻きつける」
「端線を優しく引っ張って軽く結束させる。この時点ではまだきつく締めこまないこと。結束部を指でつまみながら引っ張ると――金属の穴まで結束部がスルスルと滑ってくる。ここまで来たら、本線を引っ張るんだ」
「これがユニノット。簡単だろ?」
練習は家で!
川面の光が強くなってきた。遠くでは水鳥が飛び立ち、ゆうゆうと空に白い軌跡を描いている。しかし、時計を見ると、家に戻り朝食を食べ、高校に行かねばならぬ時間が迫っている。
オレは釣り姉に教わったとおり、ラインを通し、指先でユニノットを結んでみる。
Uターンさせ、輪を作って巻きつけ、ゆっくりと締め込む。
すると、ラインがピンと伸び、先ほど見たような綺麗な結び目ができあがった。
ほんの少しだけ、誇らしい気持ちになる。
釣り姉はその様子を見て、口角を上げた。
「いろんな結び方にチャレンジするのは結構。だけど、練習は家でしてくるべきだよ」
その声はやわらかいが、どこかで背筋を正されるような響きがあった。
「釣り場では、それ以外のことを学ぶべきさ」
彼女は川の方を向き、目を細めた。
流れの先には、陽の反射が無数に揺らめき、銀色の粒がはじけるように光っている。
「釣りの時間はいくらあっても足りないんだからね」
その言葉に、オレは何も言えなかった。
けれど、胸の奥に静かに染みていく、不思議な感覚があった。
まとめ
釣りを始めたばかりの方にとって、細いラインで魚を釣るときの結び方は意外と悩ましいものです。
そんなときにおすすめなのが「ユニノット」という結び方です。ユニノットは、その名の通りとてもシンプルで、初心者でも無理なく結ぶことができます。手順も直感的で、サルカンやルアーのアイにラインを通し、Uターンさせて輪を作り、数回巻きつけるだけ。最後に軽く締め込むと、自然に美しい結び目が完成します。
この結び方の魅力は、簡単なだけでなく、しっかりとした強度も期待できることです。もちろん、強度そのものはラインの素材や太さに左右されますが、正しく結べば、細いラインでも魚を安心して引き寄せられます。
特に、ウキ釣りや小物釣りのように繊細な感度が求められる釣りでは、ラインに癖やヨレを残さず結べることが重要です。ユニノットなら、その点も安心。フィールドで風が吹いても、結びやすく、作業中のストレスが少ないのも大きなメリットです。
さらに、ユニノットは覚えやすいので、練習を重ねれば家でも短時間でマスターできます。いくつもの結び方を覚えるよりも、まずはこれを確実に身につけることで、釣りの楽しさがぐっと広がるはずです。
釣り場で焦らずに魚と向き合えるようになり、トラブルに対してもの自信も自然とついてきます。初心者から経験者まで、細糸を扱うすべての釣り人におすすめの、実用的で安心感のある結び方。それがユニノットです。



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