延べ竿だって糸ヨレが起きる。
釣りをしていると、思わずイラッとしてしまうこと、ありますよね。特に延べ竿での糸のヨレは、小さなトラブルの代表です。知らないうちにねじれて絡まったり、ダマになったりすると、直すどころか釣るのも一苦労になります。
でも、ちょっとした工夫でずいぶん楽になります。今回は、釣り初心者でも簡単にできる、糸ヨレを防ぐポイントをやさしく、ストーリーでまとめてみました。
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川面がわずかにきらめき、朝の光が穂先を照らしている。
その爽やかさと対照的に、オレは3.6mの小継竿の穂先にグルグルと巻きついた仕掛けを解こうとしていた。
ポコポコと浮き沈みする発泡ウキに夢中になり、気が付いたらこうなっていたのだ。仕方がないので竿をたたみ、慎重に穂先を手元へ手繰り寄せてみる。
延べ竿の糸ヨレ対策ノウハウ集
ヨレが蓄積され、あるとき爆発する
ビチャン♪
水面のあちこちで水音が弾ける。ライズが始まったのだ。水面付近を流れる朝食を求め、魚が水面を割り、朝日が散らされる。絶好のチャンスを逃してはならない。急いで穂先を直さねば……!
しかし、1段ずつ引き込むたびに竿がブルンと動き、あるとき、それがヨレと重なるように暴れると、一瞬のうちに道糸は大爆発を起こす。
「うわっ!」
仕掛けが見事にぐちゃぐちゃになり、先端でダマになっている。嘲笑うようにだらしなく垂れさがるウキが風で踊ると、オレの心もぽっきりと折れてしまった。
「やめたやめた! 今日はもう帰ろう!」
一人呟くと、背後から釣り姉の笑い声が響く。
「アハハッ! だめじゃないか鯉太郎!」
「釣り姉!?」
振り返ると、堂々とした一羽のアオサギが声をかけてくる。
彼女……いや、今はただの鳥だが、オレに釣りのことを熱心に教えてくれる、近所の妙齢の女性である。今は、見ての通り、言葉が喋れる怪鳥だが……。
ハタハタと羽ばたくと、白地に黒の羽根が辺り一面に舞い上がり、視界を覆いつくす。全てがひらりと地面に落ちると、やがて姿を現したのは麦わら帽子がよく似合う、いつもの釣り姉だ。
こんなことがバカげているのは百も承知だ。しかし、漁港にうろつく老練の野良猫のように、彼女の知っていることはオレの釣りに役に立つことばかりだったので、不思議と師弟関係になり、敬愛を込めて『釣り姉』と呼び、日々教えを請っているのだ。
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| ・この程度の絡みなら、手の中で竿尻を回転させてやれば十分解決可能。 |
延べ竿のキャストの仕方、ウキとオモリの合わせ方
土手には、猛スピードで通勤中と思われる乗用車が現れ始めると、無垢だった自然がにわかに文明の香りを帯び始める。朝が近づき、川辺の光はますます白く強くなっていた。
「竿の穂先にラインが絡むのは、川の小物釣りじゃ“あるある”さ。オイカワ、カワムツ、ウグイ。流れに乗せるフカセ釣りみたいなもんだから、竿捌き一つで、たるんだ糸にトラブルが生まれるんだ」
苦笑しながら竿先を見つめた。
「釣り姉? ライントラブルが“あるある”だって? オレ、延べ竿だよ? リールも使ってないのに、そんなことあるの?」
「なら、仕掛けの使い方をよく考えてごらん? ウキは水面に固定だろ? だけど竿はグルグルと動く。もし“なんらかの理由で”竿が回り、ラインにヨレが生まれたら、逃げ道がないんだよ」
「竿が回る? それがヨレの理由? どういうこと?」
「まぁまぁ、落ち着いて。とにもかくにも、ねじれは蓄積するもんさ。この釣りは、そういう釣りなんだよ」
彼女は陽に焼けた頬を光らせて言うと、心の中も少しだけ軽くなった気がした。
「それじゃあ、延べ竿でのライントラブル対策を話していこうか」
オレが仕掛けをほどきながらうなずくと、彼女は嬉しそうに話し始めた。
「一番良くないのはね、仕掛けが飛ばないからって、竿を真っすぐ振ってキャストしないことさ。サイドキャストとかバックハンドとかね?」
「あ……っ!? それ、やってるかも……」
「そういった方法でキャストすると、手でひねりが加わって糸がヨレる。流している最中はウキで固定されて、仕掛けを回収した時には、もうすでに半回転加わってるってことさ! 」
「じゃあ、それが蓄積されると……さっきみたいに爆発?」
「よくわかったな! だから基本は、アンダーハンドで真っすぐキャストする“送り込み”ってやつがおすすめだね」
彼女は笑い、オレの背を軽く叩くと、思わず唇を噛んだ。
「だって、仕掛けが軽すぎて、そういうふうにキャストしないと届かないときもあるんだよ。8号ガン玉2つに、発泡ウキだよ? 竿のしなりと勢いがないと……」
「ふむ……。それは、ウキとオモリが軽すぎたんじゃないかい?」
「でも!! ウキもオモリも重いと、流したときに不自然になるでしょ? それじゃあ……」
「言いたいことはわかる。けど、真冬でもない限り、餌で魚は寄ってくるし、口も使ってくれる。アタリがある範囲内で、ウキとオモリはなるべく重めがいいんだよ」
「え!? オレ、てっきり軽ければ軽いほど良いものだとばっかり……」
「そこはリスクアンドベネフィットだね。それに、重ければ仕掛けを上げる時に下へ引っ張る力が働く。多少ヨレてても絡みづらくなるんだ」
今まで釣果ばかりを気にしていた。だが、糸を解く時間だってタダではない。納得したような、まだ腑に落ちないような、少し不安な気持ちがあった。
「つまり……ライントラブルが起きない範囲で、ウキとオモリを決めるのが大事ってこと?」
「そう。それがウキ釣りの醍醐味でもあるんだ。鯉太郎だってライントラブルは時間食い虫だって分かってんだろう? 今みたいに、みすみすチャンスを逃すようなもんなのさ!!」
彼女は笑いながら一本の竿を取り出すと、さっと仕掛けをセットして振って見せた。
「それじゃあ、軽いウキを使うときはあるかって? そりゃあるさ。どうしても釣果に恵まれない時の最後の手段としてか、トラブル覚悟でやる時だね」
川風に吹かれながら、オレは新しい糸を結び直した。風が頬をなでる。
時は金なり。釣りって、単純なようで奥が深い。
人生の取捨選択に必要なエッセンスが詰まっているような気がした。
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| ・賛否両論の天井糸だが、穂先と道糸の状態を確認するには有用。特に仄暗いマズメ時に効果を発揮する。 |
仕掛けの数は余裕をもって、時に道具に頼るのもあり
影が形を作り始め、空を仰ぐと太陽が少しずつ高くなっていた。風が強まり、川辺の緑が夏の風にゆらいでいる。
釣り姉は変わりゆく空を見上げながら言った。
「せっかくだから、少し仕掛けについて話しておこうか?」
オレがうなずくと、彼女はゆっくりと口を開いた。
「まず大切なのは、代わりの仕掛けを持っていることと、自分で直せる腕前があることだ。青年は、釣り場での修理は得意かい?」
「どっちかというと苦手だな。光の加減で細かい部分が見えなくなるし、風で糸が揺れるし、それに他の人に見られてると思うと、やっぱり気持ちが焦るんだよなぁ」
彼女はくすくすと笑った。
「でもな、仕掛け巻きが使えない釣りもある。だから、現地で糸を結べる技術とメンタルを育てるのも必要なんだよ?」
オレは竿を見つめたままつぶやいた。
「できるかな……」
「できるさ!」
その声は、力強く応援してくれているようだった。
「釣りを続けていれば、トラブルはいつだって必ず降りかかってくる。そのたびに釣りをやめて、不貞腐れて帰るのかい?」
「それは……」
「ラインが絡まるのも、結び直すのも、何事もチャレンジさ!」
「……そうか! そうだよね。絡まった仕掛け直し、もうちょっと頑張ってみようかな」
諦めかけていた仕掛けを見つめ直すと、なんだかまだ直せそうな気がした。そう思えたのは、彼女の言葉に押され、胸の奥で小さな火が灯ったからだ。
「それでだ。今、青年に起きているトラブルを見て思い出したけど、天井糸って知ってるか?」
「え、天井糸? 実は興味があって……。絡みにくくなるって聞いたことあるけど、実際どうなの?」
「まぁ、あたしに言わせてもらえれば、付けているだけで絡みづらくなるかと言われれば……うーん、それは微妙だね」
彼女はこれでもかと肩をすくめ、大きく首を振ったが、その麦わら帽子の下で大きな目を輝かせ、にやりと笑ってみせた。
「だが、天井糸は視認性はすこぶるいい。太い撚り糸だからね。これを付けておけば、穂先で右回転で絡んでいるのか、左回転なのか、竿を握ったままでもわかるんだ」
「つまり、トラブルが見つけやすいし、直しやすいってこと?」
「そういうことだな。もっとも、もし道具で改善したいなら、天井糸ではなくて回転トップをお勧めするよ?」
「回転トップ?」
「穂先のリリアンの代わりに取り付ける金具のことさ。仕掛けを付けると、これ自体がグルグルと回ってヨレを軽減できる。ただ、取り付けに改造が必要だから、あらかじめ付いている新しい竿を買うといいね」
「そんな便利なものがあるんだ!? 次の竿はそれが付いているものにしようかな……」
「とはいえ、サルカンのように100%ヨレを解消できるわけじゃない。ヨレ対策に完璧なんてないんだよ。釣りが糸を使っている限り、ヨレはどこまでも追いかけてくるのさ!」
覚えておきたい、小さなヨレを直す技
彼女がそう言うと、夏の河原の苔の香りを含んだ風が頬を撫でた。水面は陽の光を受けて白銀に染まり、遠くでは蝉が鳴き始めている。
「だからこそ、定期的な穂先のチェックは大切だ。違和感があったら、すぐに仕掛けを回収するくらいの徹底した管理が必要さ」
「そんなに? というか、管理するものなの?」
「もちろんだとも。既知のトラブルは管理するものさ! たかがヨレと油断していると、穂先が折れることだってあるんだよ?」
「なるほど……。オレ、てっきり自分の運が悪いから絡んでいるのだとばかり……」
「アハハッ、みんな同じことで悩んでいるのさ。だから、対策している人だけが快適に釣りができるんだ。例えば、竿を真上にしちゃいけないよ?」
「どうして?」
彼女が指で道糸を何十回も回転させ、意図的に手元でヨレを作ってみせた。そして竿を天高く真上に突き上げ、仕掛けを手から離すと、ヨレを発散するようにぐるぐると穂先へ絡み始めた。
「ん!? ……そんなことが起きるの!? 知らなかった!!」
「だろ? だから、餌を付けるときは仕掛けが穂先に近づかないように、少しだけ引っ張っておくのさ。穂先が曲がっていれば絡みづらいし、爆発もしにくい。それができないなら、少しだけ斜めにしておくべきだね」
「道糸を引っ張るのか……考えたこともなかった」
「時には竿を斜めにして仕掛けを水面から離す。少し放置しておくだけでヨレが取れるんだ。とはいえ、今日みたいに風が吹いていて、ウキが付いている釣りでは効果は弱い」
本来なら、道糸が今まで溜まったヨレを発散するように逆方向へ回転するのだろうが、彼女の仕掛けのウキはピタリと止まったままだ。
オレが肩を落とすと、彼女は苦笑いをしてみせた。
「うーん……なんか、もっといい方法ないのかな?」
「ってなるよな? だから、とっておきを教えよう。ウキを外して仕掛けを下流に流し、その状態で竿を引いたり緩めたりするんだ。これでも取れないなら、オモリも外して同じことをしてみてくれ」
よほどオレの目が輝いたのだろう。釣り姉は目の前で実際に仕掛けを流して見せた。
「すると、川の流れに引っ張られて、自然とヨレは戻るはずさ!」
「なるほど、それはいい!」
「とはいえ、ウキならまだしも、両方を外す際は注意してくれ。ラインが引っ張られなくなるから、今まで溜まっていたヨレが一気に爆発することもあるからね」
「……ラインのテンションって大切なんだね?」
「そうとも! だから、仕掛けを最後まで流し切るのも効果的さ。小さなヨレなら水流が直してくれる。もっとも、アタリが多い時はそんな余裕ないけどね。アハハ!」
回収された仕掛けを見るとヨレは軽減されており、それに満足した彼女の高笑いが風の音に溶けていく。その声を聞きながら、釣りって本当に奥が深いものだと、しみじみと思った。
絡みを取るつもりが、大きなトラブルになることも
時計を見ると、すっかり朝食の時間だった。親が待っているに違いない。
そろそろ学校に向うタイムリミットのようだ。
が、やはり気になってしまうことがある。
それが釣り人なのだ。
「それでも、どうしようもない時ってどうすればいいの?」
と聞くと、釣り姉は静かにうなずいた。
「穂先に巻きついただけなら、十分修復は可能だよ。竿を持って少し糸を張り、手の中でグルグル回転させればいい。それで治らなかったら、竿先に手を伸ばすことになるんだけど、とは言え、竿をたたむのは危険だよ。さっきみたいにヨレが爆発して絡まることがあるからね」
と彼女は穂先を指差しつつ、さらに話を続けた。
「だから、柔らかい草の上に置くか、木に立てかけて穂先まで行って直す。ただし、立てかける際に竿が傷つくこともあり、これが後々の大きなトラブルになることもある。それにだ、……仕掛けを無理に引っ張ると穂先が折れることだってある」
「そんなにリスキーなことなの?」
「まぁ、最後まで聞いてほしい。まずは傷つかないような場所に置いて、丁寧に仕掛けを取り外す。それから糸をほぐせば大丈夫さ!」
ロングヘアをなびかせると、鋭い目つきでとなる。
「それで、問題となるのは、高弾性のカーボンの時。とりわけアユの友釣りで使うような高価な竿だと、ちょっとの傷で折れることがあるんだ」
「えぇ!? それって数万円するやつでしょう? オレのグラス100%の竿でも関係あるの?」
すると、彼女はふぅとため息をついて、自虐気に笑った。
「だよなぁ~。正直な話、小物釣りで使うような竿は、柔軟性に重きを置いているし、かかる力も弱いから、多少乱雑に扱っても大きな問題にはなりづらいんだ」
「なーんだ。オレにの竿には関係ないことかぁ~」
と、口にすると、ポカリと天から平手が落ちてきて頭を直撃した。
「コラコラ! まったく関係ないってことなないんだよ? 特に竿を出すとき、仕舞うとき、立てかけるとき、置くときは、折れた、傷が入った、踏みつけたとかのトラブルが起きやすいんだ。だから十分に注意してほしいところだね」
「……はーーい。なんだか、ライントラブルでそこまでの話が出てくるなんて考えもしなかったよ」
彼女は微笑み、夕陽の中で言った。
「アハハ! それだけ奥が深いのさ! だからやめられないんだよ」
そう言いきると、彼女の体は光を帯び、「さぁ、今日はここまでさ!」と一声発し、再びアオサギの姿となって天高く飛び去っていくのであった。
まとめ
延べ竿での釣りを楽しむとき、意外に悩まされるのが糸のヨレです。特に流れのある場所でのウキ釣りでは、仕掛けが水面に固定されるため、竿を操作するたびにラインにねじれが生じやすく、知らないうちにヨレが蓄積してしまいます。ヨレがひどくなると、仕掛けが絡んだり、いわゆる爆発状になってダマになったりと、釣りの楽しさが半減してしまうこともあります。そこで、ちょっとした工夫で糸ヨレを防ぐ方法を知っておくと、釣果を逃さず、釣り自体も快適に楽しめます。
まず基本となるのは、竿の扱い方です。延べ竿はリールを使わないため、キャストや仕掛けの送り込み時に竿を真っすぐ振ることが大切です。サイドキャストやバックハンドで振ると、竿自体が回転してラインにねじれが生じやすくなります。また、軽めのウキやオモリを使う場合も注意が必要です。勢いをつけてしなりを利用しながらキャストすると、知らないうちにサイドキャストやバックハンドになり、ヨレが発生することがあります。延べ竿の基本は、真っすぐでヨレが生まれないアンダーキャストの「送り込み」です。
糸ヨレを防ぐには、仕掛けの重さのバランスも考慮しましょう。軽すぎるウキとオモリは流れに乗りやすいですが、キャスト時に絡まりやすくなります。一方で、重すぎると魚が触ったときに違和感を与えやすくなりますが、ライントラブルは劇的に減ります。釣り場や魚の状況に応じて最適な重さを選ぶことが大切です。軽すぎず、重すぎず、ほどよいバランスを意識するだけで、糸ヨレによるトラブルを大幅に減らせます。
道具面での工夫も効果的です。「天井糸」を使うと、ラインがねじれやすい方向を視覚的に確認でき、トラブルが起きる前に気づきやすくなります。また、回転トップという金具を竿先に取り付ければ、仕掛け自体が回転することでヨレを軽減することも可能です。ただし、回転トップは取り付けに改造が必要な場合があるため、購入時に最初から付いている竿を選ぶのが安心です。
仕掛けの管理も重要です。ウキが水面に固定されるため、ねじれが蓄積されやすい釣りです。そのため、定期的にオモリやウキを外して仕掛けを下流に流し、川の流れに引っ張らせてヨレを解消しましょう。また、ヨレても爆発しないよう、ラインに適度なテンションをかけることも肝心です。
トラブルが起きても慌てないこともポイントです。ラインが絡まったり仕掛けがヨレても、焦らず丁寧にほどくことで、竿や仕掛けを傷めずに修復できます。まずは仕掛けを引っ張りながら、手の中で竿を右回転または左回転させて穂先の巻き付きを解消してみましょう。それでもだめなら、柔らかい草の上に置いたり、木に立てかけて手先でほどくだけでも十分解消可能なことがほとんどです。慌てず少しずつ手順を踏むことが、延べ竿を長く楽しむ秘訣です。
延べ竿の糸ヨレ対策は、道具の使い方とちょっとした工夫で十分に対応できます。キャストの仕方や仕掛けの流し方、道具選び、そして焦らず丁寧に扱うこと。これらを意識するだけで、釣りの楽しさは格段に増し、釣果も安定します。糸ヨレを恐れず、快適な釣り時間を楽しんでみてください。


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