ポイント選びは魚の気持ちを考えて
川面に小さな波紋が広がるたび、ふと足を止めて見入ってしまうことはありませんか?
あのライズの先に、魚は何を待っているのでしょう――虫なのか、小さなプランクトンなのか。それとも、私たちがまだ気づかない何かを狙っているのでしょうか。
でも、ちょっと考えてみてください。魚が待っているものは、あなたの釣り方とちゃんと合っていますか?
今回は、初心者によくある「魚がいる場所と、釣れる場所は違う」というお話をしてみたいと思います。
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秋の朝の川は、吐く息が白くなるほど冷えていた。
やがて太陽が顔を出すと、水面がきらりと光り、大きなライズが広がった。まるで川そのものが目を覚ましたようだった。
目の前で波紋が立ったポイントに、反射的に仕掛けを振り込む。すぐに「ぐっ」とウキが止まる感触。いまだ!と合わせると、生き物の気配がない重さ――根掛かりだ。
だが、幸いなことに、今日は長靴を履いている。足元は思ったより浅い。少しずつ近寄りながら、竿を右に左に振って外れないか試してみることにした。
――え?
なんと、引っかかっているポイントまで歩いて行けてしまった。
「うわ、こんなに浅いのかよ……」
くるぶしより少し上。思ったよりもはるかに浅い。
さっき見た魚影――ほんの一瞬だけ見えた銀の煌めきが頭をよぎる。
――あんな浅瀬に、本当にあの大物がいたのか?
信じられない気持ちで、オレは濡れた竿先をもう一度見つめてみるのだった。
ライズはある。でも魚が釣れない理由
あの魚釣れるのかな?
鯉太郎:「――あっ!! 釣り姉?」
釣り姉:「どうしたんだい、そんなに浅瀬をじっと睨みつけて?」
鯉太郎:「ライズがあったんだ! 魚影も見たんだよ? だから竿を出したんだけどさ……」
釣り姉:「ほう、こんな浅いところで? で、結果は?」
鯉太郎:「うん……根に掛かった……」
釣り姉:「あはは、やっぱりね。気持ちはわかるけど、ちょっと焦りすぎたねぇ」
鯉太郎:「幸い、長靴で入って取れたけどさぁ」
釣り姉:「いい経験になったじゃないか。釣りは失敗の積み重ねだよ」
鯉太郎:「でもさ、ハリスを10センチまで詰めても、くるぶしよりちょい上の深さじゃウキ釣りは無理だよなぁ。もっと冷静になればよかった」
釣り姉:「うはは! 反省とはいい心がけだね? でも、そんな竿を出しづらい場所にも魚はいるのさ」
鯉太郎:「え、じゃあ、やっぱり?」
釣り姉:「とはいえ、魚がいるのと釣れる魚がいるのとは別の話さ」
鯉太郎:「釣れる魚……?」
釣り姉:「ふふ、それはこれから教えてあげるよ」
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| イカタンを付けたジグヘッドにかかったカワムツ。どんな釣り方でも釣れるのが魅力だが…… |
どんな餌がを待っているのか?
釣り姉:「ところで鯉太郎? 川の流れの中で――オイカワ、カワムツ、ウグイの小魚たちは、どこにいると思う?」
鯉太郎:「それって、川のどこにでもいるって聞いたけど……ほんとかなぁ?」
釣り姉:「あはは、本当さ。夏から秋の早朝に偏光レンズをかけて、静かにウェーディングしてみな。きっと黒い魚影がスッと散っていくのが見えるはずだよ」
鯉太郎:「さっきの浅瀬でも見たことあるよ?」
釣り姉:「もちろん。ただね、その子たちが“釣れる”かは別問題。釣りは“食い気のある魚”がいる場所を見つけなきゃいけない。だから釣りは難しいのさ」
鯉太郎:「食い気のある魚?」
釣り姉:「そう。魚の中でも、お腹を空かせているやつだよ」
鯉太郎:「じゃあ、ライズしてる魚なら釣れそうじゃない?」
釣り姉:「それがね、そう単純でもないんだ。……鯉太郎、回転ずしに行ったら、何を一番最初に食べたい?」
鯉太郎:「そりゃサーモンかな。でも、なんで寿司の話?」
釣り姉:「じゃあ、奥からサーモンが来て、そのあとにマグロが流れてきたら?」
鯉太郎:「うーん……まずサーモン取っちゃうかも。でもマグロも気になるなぁ。手が忙しくて、ちょっと迷うかも」
釣り姉:「そうだろ? 魚も同じでね、“今食べたい餌”が決まってるんだよ」
鯉太郎:「あっ、つまり狙ってる餌に合わせないと釣れないってことか!」
釣り姉:「正解。でも半分不正解。餌だけじゃない、流し方、つまり仕掛けだって合わせないとね」
鯉太郎:「仕掛けまで?」
釣り姉:「そう。さっきの浅瀬じゃウキ釣りは無理でしょう? 提灯釣りみたいにウキなしで宙を吊るか、あるいはオモリを外してフカセ釣り風にしてみるとか」
鯉太郎:「あぁ、なるほど。そういうことかぁ」
釣り姉:「とにかく、ライズを見た瞬間に投げたくなる気持ちはわかるけど、それが“釣れる魚”とは限らない。まずは冷静に観察すること。そこからが、ほんとの釣りの始まりだよ」
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| ウェットフライを浅瀬でリトリーブするとオイカワが飛び出してきた!! |
落ちパク
鯉太郎:「ところでさ、食い気のある魚がいる場所って、どうやったらわかるの?」
釣り姉:「うん、いい質問だね。まず前提として――魚が活発に食う“季節と時間”に釣り場へ行くことが大事だよ」
鯉太郎:「季節と時間?」
釣り姉:「そう。季節なら春から秋。その中でも、朝夕の“マヅメ時”がベスト。初冬になったら、水温が上がる昼間が狙い目だね。とにかく魚が元気で、食欲がある時間帯を選ぶんだ」
鯉太郎:「なるほど。でも、魚にも狙ってるものがあるって言うけど、オイカワって何を食べてるんだろう?」
釣り姉:「自然界では、昆虫、プランクトン、苔。けど実際はもっと雑食だよ。釣り人なら知ってるだろ?」
鯉太郎:「……コーン?」
釣り姉:「そうそう。コーンに、ジャガイモ、ご飯粒、イカまで。きっと流れてきた野菜くずや残飯なんかも食べてるだろうね」
鯉太郎:「じゃあ、それを全部持ってきて、当たりを探るってこと?」
釣り姉:「まぁまぁ、そんなに気負わなくてもいいさ。もっと楽な考え方があるよ。たとえば――アシの下にいる魚は、何を待ってると思う?」
鯉太郎:「あの背の高い草みたいなやつ? そうだなぁ……、虫が落ちてきそうだけど?」
釣り姉:「あはは、その通り。上から落ちてくる餌を待ってるんだ。だから流すより“ぽとり”と落とすのがいい。すると、反射的に飛び出てくる。これを“落ちパク”って言うんだよ」
鯉太郎:「ぽとり、か……。それ、餌釣りでもできるの?」
釣り姉:「うーん、ウキ釣りキワを狙うのは、ちょっとだけ難しいかな。この釣りでは、オモリより下は軽いから、コントロールが利きづらいいんだ」
鯉太郎:「あ! オモリを支点にハリスがぷらーんて振り子のように?」
釣り姉:「うんうん」
鯉太郎:「それで、対岸の草に絡まっちゃうと?」
釣り姉:「そういうこと。とは言え、延べ竿はキャストがしやすいものだから、慣れてくれば容易いだろうね。それでも、どちらかと言えば、フライやルアーの方が向いているだろう」
鯉太郎:「なるほど……」
釣り姉:「釣果はあるだろうけど、効率はよくないだろうね」
釣りやすさは釣れやすさ
鯉太郎:「ところで、流れのある場所だと、魚は何を狙ってるの?」
釣り姉:「おそらく、水生昆虫や落ちた陸生昆虫、農作物のかけら――なんでも流れてくるものを待ってるんだよ。魚は意外と“通りすがりの餌”を狙ってるのさ」
鯉太郎:「だから餌釣りでも釣れるのか」
釣り姉:「そういうこと。でも、釣れる理由はそれだけじゃない。瀬や淵って、釣りやすい場所でもあるだろう?」
鯉太郎:「あ、なるほど。根掛かりしにくいし、仕掛けも扱いやすい。釣りやすい場所だから釣れるってこともあるんだね」
釣り姉:「そう。さっきのアシの下の話と同じ。仕掛けを入れやすい場所=釣れやすい場所でもあるんだ」
鯉太郎:「じゃあ、あの浅瀬は?」
釣り姉:「そうだねぇ……ちょっと目の細かい網で水を掬ってみようか」
鯉太郎:「あ……白いアミに何かついてる。カクカクした欠片みたいなやつ……」
釣り姉:「きっと、ユスリカの蛹の殻だね。きっと羽化した後だよ。ユスリカはもちろん、蛹の殻まで食べてることもあるのさ」
鯉太郎:「じゃあ、こういう時は何をすれば釣れるの?」
釣り姉:「浅くて水面のすぐ下、そしてユスリカ――となれば、ウェットのフライで狙うのが一番だね」
鯉太郎:「なるほど……それぞれの釣り方って、ちゃんと理にかなってるんだ」
釣り姉:「そういうことさ。理屈がわかれば、魚との距離もぐっと近くなるよ」
魚の気持ち
釣り姉:「いいかい、魚が“何を狙ってるか”――それが“流れてくるもの”なのか、“落ちてくるもの”なのか、“水面下の出来事”なのかで、釣り方は変わるんだ」
鯉太郎:「うーん……つまり、どういうこと?」
釣り姉:「たとえば、餌釣りで釣れるポイントをフライやルアーで狙っても、釣れないことがある。その逆もね」
鯉太郎:「浅瀬みたいなところ?」
釣り姉:「そう。繰り返すけど、浅瀬では餌釣りは難しい。でもフライなら糸が水面に張り付いて自然に流せる。さらに、魚が狙ってる“本物”に近いものを見せられる」
鯉太郎:「なら、ああいう場所はフライはよく釣れるの?」
釣り姉:「そういうこと。条件が合えば、フライは必ず狙うポイントになるんだ」
鯉太郎:「じゃあ、ルアーなら?」
釣り姉:「ルアーなら、アシの根元にピン打ちだね。特にカワムツなんかは、黒いスプーンを甲虫が落ちてきたと思って、反射的に食いつくことが多い」
鯉太郎:「へぇ、そんな反応するんだ。じゃあ餌釣りは?」
釣り姉:「餌釣りは魚を“寄せる力”が強いんだ。春から秋なら、流しやすい場所――魚が居着くポイントの“少し上流”を狙うのがコツさ」
鯉太郎:「居着きの上流って……引っ張ってくるってこと?」
釣り姉:「その通り。匂いに寄せられて集まってきたところを、流れに乗せながら魚の鼻先を通す。それができれば一気に掛かるよ」
鯉太郎:「なるほど……フライもルアーも餌釣りも、結局は魚の気持ちを読む釣りなんだね」
釣り姉:「うん、いいこと言うね。釣れない時ほど、今日話したことを思い出してごらん。魚が何を見て、どう動いてるか――それを想像できたら、もう一人前さ」
まとめ
川で釣りを楽しむとき、まず知っておきたいのは、魚が「どこで何を狙っているか」ということです。
小さなオイカワやカワムツ、ウグイでも、彼らには日常のリズムがあり、活発に餌を探す時間帯があります。特に朝夕のマヅメや、季節によって食欲が旺盛になる時期を狙うのがポイントです。タイミングさえ合えばあとは釣るポイントとなりますが、その選び方は彼らが“待つ場所”で“今何を食べたいのか”を意識することが大切です。それに合わせて、餌の種類や釣り方を工夫する必要があります。
自然界で彼らが食べるのは、昆虫やプランクトン、苔などです。
しかし釣り場では、コーンやジャガイモ、ご飯粒、イカなど、人間が用意した餌にも食いつきます。瀬や淵など流れが集まるポイントでは、落ちてくる虫や水面を漂う小さな浮遊物(農作物や残飯)を待ち構えている魚も多く、アシや草の根元では、上から落ちてくる餌を狙っている魚もいます。
こうした魚の習性を理解することで、餌の種類だけでなく、釣り方そのものも変わってきます。「流れてくるもの」を狙うなら餌釣りやフライが自然に演出でき、ピンポイントを狙うならルアーやテンカラが効率的に探れます。
つまり、釣れるポイントとは単に魚がいる場所ではなく、魚が餌を待っている場所だと言えます。瀬や淵、アシの根元、浅瀬の水面下など、魚が餌を待っている場所で、それにマッチした流し方をすれば自然と釣れるチャンスが高まります。
観察力を働かせて魚の行動を想像すること――これが釣りの楽しさをぐっと深める秘訣です。どんな小さな魚でも、その“狙っている餌”に合わせた仕掛けを選ぶだけで、釣れる可能性はぐっと高まります。


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