仕掛けの自作・修理、知っておきたい小物4つ
川での小物釣りは、たくさん釣れる分、市販の仕掛けがダメになるのも早く、お小遣いが飛んでしまいやすいもの。でも、道具をバラで購入し、仕掛けを自作すれば、節約しながらも存分に釣りを楽しむことができるのです。
今回は、道糸、ウキ、ウキゴム、オモリの基本4点を中心に、仕掛けの自作術をストーリーでやさしく紹介していきます。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
夏の河原。
日が昇ってから二時間、そよ風と朝焼けの麗しい川辺は、大小の石が太陽光で熱気を帯び、天然のサウナとなり始めていた。
偏光レンズを外すと、辺り一面がホワイトバランスを崩したかのように白く色飛びした世界が広がっていた。
なるほど、これが先ほどからじりじりと身を焦がす正体で、そろそろ納竿をしなくてはいけない時間のようだ。
ポケットからスマホを取り出し、撮影した写真を数えると、にぃ、しぃ、ろぅ、やぁ、とぉ。「ツ抜け」は達成しているようだが、あれだけウキにアタリがありつつも、釣り上げたのはたった十匹。
「ドギマギした合わせが、きっと悪いんだろうなぁ……」
一人呟きつつ、十二尺のグラスの小継竿をパタパタとしまい込む。
すると、フリフリと穂先が暴れ、振動がプルンプルンと伝わってくる。
だが――
ポヨヨンッ!!
突然生じた妙な感触。何事かと思い手元の仕掛けを見ると、不思議なことに足元にあったはずのウキが、目線のさらに先まで来ている。さらにその先をじっと見つめると……、穂先の先にピンポン球くらいの大きなコブ。
どうやら仕掛けを伸ばさずに不用意に竿をしまい込んだため、溜まっていた道糸のヨレが爆発し、グルングルンに絡まってしまったようだ。
「あぁーあ、またやっちゃったよ。450円……」
仕掛けは修理、自作して使おう
夏は釣りの練習に持ってこい
最近、川の小物釣りにハマっている。
近所で短時間だから親も許可してくれたし、なにより反応も多く釣果も上々なので、好きにならないわけがない。
だが、ハマればハマるほど頭を抱える問題が浮き上がってきた。
仕掛けを買うお金が足りないのだ。
週2回の釣行だが、未熟な竿さばきでは毎回最低1つは仕掛けを駄目にしてしまう。
1つ450円、週に900円、1か月で3600円の出費となり、お小遣いには大打撃だ。
――あぁ、今月も牛丼屋に行けないなぁ。
せっかく誘われたのに、あいつと行ってみたかったなぁ……。
おぼろげな気持ちで竿から仕掛けを外し、ダマになった仕掛けの処遇に困っていると、ふいに目の前に1羽のアオサギがやってきた。
「あっ!」
と声をかける前に、河原に突風が吹き、思わず身を屈めて目をつむる。
「よう! 青年!」
言葉を投げかけられた方を見ると、褐色の肌に白いブラウスを着た妙齢の女性が立っていた。
「釣り姉(つりねえ)!」
人ならざる者なのだが、川の小物釣りに詳しい頼もしい存在だ。
詳しいことを聞こうと思っても、大抵は釣りの話で盛り上がってしまい、彼女の目的や正体については聞けないでいる。
そんな彼女に、この手中の大問題の解決策を尋ねると、ギャハハっと笑いながらロングヘアーをさらりと手でなびかせた。
「なら、自作だね!!」
と彼女は自信満々に答えた。
だが、オレの記憶がたしかなら……
「でも、ハードルが高そうだし、意外と高いんじゃないの? だいたい、この間お店に行ったら、専用のウキが2000円で売っててさ……」
「あはは! そりゃ高級品だからだよ。こだわるほどに高くなるのが釣り具ってものさ。でも、最初のうちは安い物で十分だし、ネットショップの足りることが多いんだよ?」
目の前のトロ瀬では、大小の水紋がひっきりなしに浮かんでいる。
それをじっと見つめながら、釣り姉は話を続けた。
「見ての通り今は最盛期。高級品なんて使わなくても簡単な道具で釣れる時期なんだ。むしろ今、質素な道具で釣れなければ、この先どんな道具でも釣れるはずがない」
「ん? どういうこと?」
「つまりだな、鯉太郎青年が釣りの実験や練習をするには、ピッタリの季節ってことだな!」
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リールのない延べ竿の釣りでも、 道糸やハリスにはトラブルが出やすい |
ウキとウキゴムの選び方
「んじゃあ、ここからは仕掛け自作について話していくぞ? でもな、本当は1つ1つにスポットライトを当てていくと、いくら時間があっても足りない話なんだ」
と言い切ると、手から件の仕掛けを奪い、ひらひらと掲げて見せた。
「だから今日は、そのうちの上半分だけ。青年がトラブルを出しまくっている『道糸』と、それにまつわる道具について紹介しようと思う。まぁ、気楽に聞いてくれよ?」
土手にある青々とした桜の木陰は、程よく日差しを遮りつつ朝の風を通して涼しい。その下の護岸ブロックに二人並んで腰を下ろすと、先ほどの灼熱地獄がまるで嘘のような別世界だった。
「それじゃあまず、道糸には何が付いていると思う?」
「というと、ウキ、オモリ?」
「それとウキ止めも忘れずにな。こいつらをバラで買ってきて、ちょちょいっと道糸に組んで、残ったハリスとつなげてやれば、今日の問題も万事解決ってわけだ」
「たしかにそうだけど……そんなに簡単にいく?」
「まぁ、そうなるよね。だから直すには、どうして各々のパーツを知る必要があるってわけだ」
首を縦に振ると、ウエストポーチからオレンジと黄色の玉ウキを1つ取り出し、ひょいと手渡してきた。
「まずはウキだ。初心者なら自重があってキャストしやすく、視認性のよい玉ウキがおすすめだ。今渡したのは4号、これが使いやすいと思う。4つ入ってたった200円前後、いいだろう?」
「1つあたり50円? でも、そんな安い物で大丈夫?」
「たしかに高いものは感度が高い。とはいえ、ウキに不慣れなうちはロストしやすいし、そもそもアタリを取る感度はオモリと適切に組み合わせてこそ生まれるものなんだ」
「オモリ?」
「そうだ。これについては最後に話すが、経験がないうちはオモリの乗せ方がわからないものなんだ。使い方次第では、安いウキでも高感度になるもんさ」
「じゃあ良いウキなら、さらに敏感に?」
「もちろんだ。だから慣れてきたら感度の高い高価なものでもいいと思う。だが、ウキの扱いがわからないうちは玉ウキで十分さ!」
――玉ウキ。
単純な構造かつ、知っているどんなウキよりもプラスチック感があり、破損とは縁がなさそうな頑強さを持っていそうだ。
感度とは縁もゆかりもないずんぐりむっくりとした形だが、釣り姉があれだけ力説しているのだがら、一度試してみる価値はありそうだ。
が、ここでふと疑問が浮かぶ。
「釣り姉? その、今までの仕掛けに付いてきたウキを全部外して保管しているんだけど、それって使っていいの?」
「もちろんだ。完成済みの仕掛けに付いてきたウキを再利用してもいい」
釣り姉はにこりとウィンクし、大きく息を吸い込むと矢継ぎ早に話し続ける。
「次はウキゴムだ。そもそもこれを知っているかい?」
「知ってるよ。ウキを仕掛けに繋ぎ止める大切なパーツだよね?」
「そうだとも。これも10個前後入って200円ぐらいだな」
「ゴム製だし小さいからもっと高いかと思ったけど、思ったより安くてびっくり」
「だよな? でも取り扱いには注意が必要なパーツなんだ。軸が太かったりラインが絡んだりすると、簡単に裂けることがある。そうなるとどうなると思う?」
「んーっと、ウキがなくなる?」
「そういうこと。不具合があれば送り込むときにウキがすっぽ抜けて、遠くの彼方へ飛んでいく。2000円のウキなら、川の中で立ち尽くすこと請け合いだ。だから釣りの最中も定期的に目視でチェックする癖をつけるべきかもな」
――もし2000円が川の流れに吸い込まれていったら?
計り知れない後悔が押し寄せてきそうだ。
「あ゛っ! どうした? 顔が青くなってるぞ、鯉太郎青年?」
「だって、2000円だよね? オレのお小遣いの約半分……」
「アッハハハ!! そうだな!!」
豪快に笑いつつも決して否定しない釣り姉の姿を見て、この趣味は無限に金がかかるものだと思い知らされた気がする。
とにもかくにも、節約に努めなければ。
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セット物のガン玉だが、対象魚によっては 逆に高くなることも |
道糸とオモリの選び方
「さぁてと、ウキ、ウキ止めときたら、次は本題の道糸なんだが、実はな……」
「安くていいものがある?」
「もちろんあるさ。正確には安物で十分なんだ。具体的には1,000円ぐらいで道糸0.8号の300m巻、これで川の小物釣りは問題なく楽しめるんだよ」
「1,000円で300mだから、えーっと50mあたり166円? でも、そんな安物で本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。小物釣りは大きな魚を相手にするわけじゃない。強い力はかからないから安物でも十分なんだ。ただし……」
釣り姉は小麦色に焼けたほっぺをポリポリとかき、深いため息をついた。
「川の小物釣りができる場所には、コイがいることも多い。だから大きな魚影には注意しろよ」
「じゃあ、どれくらいの魚までなら大丈夫なの?」
「そうだね、20cm前後のウグイくらいなら道糸0.8号、ハリス0.3号でも釣り上げられる。なんたって細く長い述べ竿だから、強い衝撃を吸収してくれるからね」
「ってことは?」
「つまりだな、だから道糸にそこまで高いクオリティを求めなくてもいいと、あたしは思ってる」
――とはいえ、50m166円はいくらなんでも安すぎる。
「やっぱり安すぎて危険な気がするなぁ……」
「まぁ、そう思うよな。こだわるなら渓流用。こっちはミャク釣り用だから高感度が売りなんだ」
「高感度? ウキ釣りでも手元でアタリがとれるってこと?」
「いやいや、ウキ釣りのアタリはウキでとるもの。ナチュラルに流すから糸もフケる。だから高感度の恩恵はほぼない。ちょっと張りがあるから絡みにくいぐらいいしか利点はない」
「なるほど。でも、高感度の糸は、やっぱり高いんでしょ?」
「あはは! 値段はピンキリさ。試すなら渓流用の50mで500~600円くらいのものがいい」
折り重なった葉の隙間から空を見上げると、さっきまで燦々と輝いていた太陽が真っ黒な雲に隠れ、湿気を帯びた空気が流れ込んできた。どうやらこの後ひと雨ありそうだ。
釣り姉も空の異変に気づき、大急ぎで話を続ける。
「最後はオモリ。1袋150円くらいで高いものじゃないが、実はこれを適切に使うのが川の小物釣りの最大のキモなんだ。できれば8号、6号、3号を用意しておきたい」
ウエストバッグを漁ると、3つの袋を取り出して目の前にぶら下げた。
「書いてある数字を読んでみ?」
「えっと……0.07g(8号)、0.12g(6号)、0.25g(3号)だって。あれ? どれも0.6~0.7の倍数になってる?」
「そうそう。うまく組み合わせれば0.7g単位で刻んで微調整できるだろ? さっき言った通り、ウキに乗せるオモリを調整するのがこの釣りのポイントなんだ」
とはいえ、これまで付属のオモリをそのまま付けてきただけなので、微調整の意味がよくわからない。ならば聞くしかない。
「うーん。でもどうすれば感度が出るの?」
「いいウキだと“ガン玉8号が何個乗るか”って表記されてるけど、玉ウキみたいに“何グラムが最適か”わからないウキも多いんだ。だから、まずは6号を2つ付けてみる。実際に流しながら、オモリを足したり減らしたりして、ウキの肩あたりで沈むように調整するんだよ。決まったらメモしたり、マジックでウキに書いておけばいい」
「えっ、そこまで細かくやる必要があるの?」
「あたりまえだ! ウキの余分な浮力を消して敏感にさせる大事な作業なんだ。これさえやれば安いウキでもアタリが出やすい。逆に高いウキでも浮力が余ってればアタリは出にくい」
「なるほど……それなら重要だね」
「だろ? 釣果に直結する。だからウキを交換するたびに必ずやるべきなんだ」
「あっ、それと注意な。ガン玉の号数と一般的なオモリの号数は体系が違う。例えばガン玉8号は0.7gだけど、ナス型オモリ8号は30gもある。大きさを見れば一目瞭然だけど、ネットで買うときは気をつけろよ」
「うーん……オモリって奥が深いんだな」
今回は道糸まで
「とにもかくにも、道糸、ウキ、ウキゴム、オモリでだいたい2,000円ぐらいだな。青年はウキはもうあるみたいだし、オモリ以外は使いまわしできるから、一通り揃えればぐんと節約できるはずさ!」
そう言うと、ばさりと音を立てて元のアオサギの姿に戻り、翼を広げた。
その姿に見とれていると、
「あっ! いけない。今日はここまでだ。次はハリ、ハリス、金具の話をするからな」
と甲高い声を残し、大空へと飛び立っていった。
空を見ると、ぽつりと額に雨粒が落ちる。
慌てて護岸ブロックから立ち上がり、家路を急ぐ鯉太郎であった。
まとめ
川の小物釣りを楽しむなら、仕掛けを自作して節約するのがおすすめです。
今回は、道糸、ウキ、ウキゴム、オモリの基本4点について紹介します。
まず道糸は、0.8号程度の300m巻きで1,000円前後のものが手軽で十分です。強い力がかからない小物釣りでは、安価な道糸でも問題なく使えます。万一大きな魚がかかる可能性がある場所では注意が必要ですが、20cm前後の良型ウグイ程度なら、延べ竿との相性もあり問題ありません。
次にウキは、初心者なら玉ウキがおすすめ。重さがありキャストしやすく、視認性も良いためアタリを取りやすいのが魅力です。1つ50円前後とお手頃なので、失くしても安心です。高感度のウキもありますが、まずは安価で丈夫なウキを使いこなすことが大切です。ウキの浮力に応じてオモリを調整することで、感度を最大限に引き出せます。
ウキを道糸に固定するのがウキゴムです。小さなパーツですが重要で、扱いを間違えるとウキが遠くへ飛んでいくこともあります。10個入りで200円程度と安価ですが、高価なウキを使う場合は定期的にチェックする習慣をつけましょう。釣りの最中に仕掛けを確認する習慣は、餌釣りはもちろん、ルアーフィッシング、フライフィッシングでも大切な習慣です。今のうちに身に付けておきましょう。
最後はオモリ。1袋150円程度で揃えやすく、8号(0.07g)、6号(0.12g)、3号(0.25g)の3種類があると便利です。ウキの浮力に合わせて組み合わせることで微妙なアタリも感じ取れます。初めのうちは6号を2つ取り付け、実際に流しながら調整するのがコツです。セッティングが決まったら、メモやマジックでウキに書き込むと、次回も同じように使えて無駄な手間が省けます。
こうして道糸、ウキ、ウキゴム、オモリをうまく組み合わせると、仕掛けを自作しても2,000円前後で一通りそろえることができます。使いまわしできるパーツも多く、無駄を減らせるので、お小遣いを気にせず釣りを楽しめます。まずは基本を押さえて、自分だけの節約仕掛けを作ってみましょう。