バラのハリ・ハリス・金具から仕掛けを自作する際に覚えておいてほしいこと
釣りの楽しさは、魚がかかった瞬間のドキドキだけじゃありません。
実は、その前に仕掛けをどう選び、どう作るかも大切なポイント。特に「ハリ」と「ハリス」は、見た目は小さくても釣果や快適さに大きく関わってきます。ちょっとした工夫で、次の釣りがぐっと快適になるはずです。
今回は、ストーリーでやさしく紹介したいと思います。
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生まれたばかりの朝日が水面に反射すると、無数のきらめきが目に飛び込んでくる。陽が出てもなお鳴き続ける夜虫の声と、野草の青臭さが重なり、夏の匂いが濃く漂っている。
今、明け方の川辺にいる。オイカワ・ウグイの小物釣りだ。
太陽は上り始めたものの、土手の影で川の流れがはっきりとしない。だからこそ、セット品に付いてきた棒ウキをやめ、視認性のよい玉ウキを流してみたのだが……。
玉ウキ3号にガン玉8号(0.7g)の仕掛けはどこか頼りなく、薄暗い流れにズルズルと身を任せている。
スーッ……
そして、黒い川の中に、オレンジ色がゆっくりと吸い込まれていった。
ハリ・ハリス・金具で自作仕掛け
ウグイ・オイカワの川の小物はどんな鈎を使う?
「っ!?」
――ビュン!
一瞬プルンと魚体の動きを感じ取れたものの、竿は合わせの反動で大きく弾かれ、仕掛けは暴れながら天高く舞った。
そして残されたのは、ウキに絡まったハリスのみ。
「あぁ、まただ!」
思わず声が漏れる。仕掛けを引き上げると、ウキのアシとハリスがぐるぐると絡まり合い、ほとんど前衛芸術とも呼べる難解さだ。ふぅとため息をついて、ハリス付き鈎のパックを見れば、既に中身は空になっている。
今日で4本目のロストだ。
ワンパック6本入りで200円。財布が空っぽになるわけじゃない。
しかし、時は金なり。釣り糸と格闘する時間は、釣果には繋がらない。
焦る心で道糸を切らぬようハリスをハサミで除去し、次の鈎の準備をすると汗が額をつたう。魚たちは、朝日に照らされ茶褐色となった水上で悠々とライズしている。それを眺めると、思わず唇を強くかんだ。
魚の影はあるのに、仕掛けは竿をブルンブルンと踊らせる前に終わってしまう。
「……ちくしょう」
小さくつぶやいたとき、背後から気配がした。
振り返ると、釣り姉が涼しげな顔で立っていた。
「よぉ! 青年。今日もトラブってるね?」
「釣り姉(つりねえ)!!」
慣れてきてからバーブレス
日はさらに昇ると、あまりの眩しさに思わず目を背けた。
陽射しはさわやかだが力強い熱気を帯びている。足元の川辺の草たちが夜露でそれを乱反射させると、幾千もの小さな輝きがたわわに実った。
だが、オレは仕掛けを手に釣り姉の前にしても、なお苦戦を強いられていた。ハサミでは取り切れない絡まりをほぐそうとしても、組み付いたハリスは意地悪に硬さを増すばかりだ。
それを知ってか知らずか、釣り姉は明るい声で話しかけてきた。
「あはははっ! 今日もお困りのようだな、青年よ?」
「……もう、そんなこと言わないでよっ! 仕掛けをキャストするとすぐにハリスが絡んじゃうんだ! これじゃあ鈎が何本あっても足りない!!」
「……というわけで、今日はハリとハリスの仕掛けの作り方について説明していこうと思うよ?」
「あ! この前の続き?」
「そうさ! まずは本題の、『鈎(つりばり)』についてだ」
釣り姉は大きく頷くと、オレの横に腰を下ろし、小さな鈎の袋を指先でつまみ上げ、澄んだ声で話し始めた。
「さて、ハリはバラで買うと種類や号数、さらにハリスの選択ができてコストも安いのだが……当然、自分でハリスに結ぶ必要がある。川の小物釣りで使うハリスは極めて細いから、ヨレなく完璧に結べるようになるまで体得には時間がかかってしまうんだ」
オレは肩を落とした。
「やっぱり難しいの? じゃあ、結べるようになるまで、どれくらいかかる?」
「フィンガーノットという方法がおすすめだが、鈎の細かさもあって体得は難しいものさ。不慣れなら結んでいる最中に鈎を失ったり、せっかく結べてもヨレだらけで使い物にならないこともある」
「えぇ!?」
「でもな、諦めずに一週間練習すれば、絶対に形になるはずさ。だからチャレンジすることが大切なんだ!」
「じゃあ、オレもやってみようかな……」
「まぁ、待って、それは釣りにどっぷりハマってからでも全然遅くはないよ。集中力のいる作業だから、なにより“うまくなりたい”という熱意が必要なんだ。だから初心者さんは、無理しなくてもいいと思っているよ」
「うーん、じゃあやっぱりハリス付き鈎で十分?」
「もちろんだとも。最初はハリス付きでいい。一度の釣りで五回も六回も交換したとしても、たかだか200円。それほど気にするものではないさ」
とはいえ、それではやはり胸の奥に妙な引っかかりが残る。
「でも、それじゃあオレ、納得できないんだなぁ……」
「ハハハ! そんな風に思い始めたらハマっている証拠さ。バラで買う方が遠回りでもメリットが多数あるし、満足感もある。それに、どんな釣りでも応用が利く。挑戦する価値はあるはずさ」
彼女はそう言い、ニッと笑った。
「ところでハリをバラで買うとして、形や大きさはどんなものがいいの?」
「実は、小物釣りで使う形は限られているんだ。そうだね、袖バリやハエスレバリがいい。サイズは3~4号くらいかなぁ。渓流のゼロ釣法で使うキツネ型も悪くない」
「返しは? その……、まだ下手でバレて魚を逃すことが多いんだ」
「なら、まずはバーブド(返しあり)だな」
「バーブレス(返しなし:スレ鈎)はどうなの?」
「慣れてからで遅くはない。魚にも優しいし、取り込んだ後すぐ外せる。もちろん服や肌からも外しやすいから人間にも優しい。だから、超が付くほどの初心者さんなら、あえて選んでもいいかもしれない」
「じゃあオレも、いつかはバーブレス?」
「そうだな。でも、いきなり全部交換するんじゃなくて、まずは返しをペンチで潰してセミバーブレスにしてみてほしい。外しやすく、ばれにくい。なかなかの使い心地のはずさ」
彼女の言葉に、オレの胸の奥のもやが少し晴れる。糸の絡まりはまだ解けないが、心は不思議と軽くなっていた。
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| ・でかでかと1000円と書かれているが、実売価格は600円ほど |
快適さの決め手はハリス
通勤ラッシュが始まった。川面を渡る風は、時計の針が進むほど強さを増していく。陽光が水面に細かな火花を散らし、木々の葉がざわめく影を落とすと、蝉の声も混じり夏の匂いに満ちてきた。
手元の仕掛けをやっとの思いで直し終えると、先ほど釣り上げ損ねたブルンとした感触を繰り返し思い出していた。釣り姉は横に立ち水面を見下ろし続けている。
「ついでに話しておこう。ハリに直接つなげるライン――ハリスの話だ。道糸より一段階細い糸を使う。どうしてだかわかるかな?」
その口調は軽いのに、瞳は真剣そのものだ。
少し考えてから、口を開いた。
「それは、根掛かりしたときに切れやすくするためかな?」
「お! よくわかったな。さすが地球釣り師!」
彼女はわざとらしく目を細め、からかうように笑った。
むっとした気持ちが湧きかけたが、次の言葉に耳を傾けることにした。
「冗談はともかく、根掛かり時に仕掛けを回収しやすくするのもある。それも大切だが、大事なのはラインが細いと流れによく馴染み、魚に気づかれにくいってことだな」
なるほど、と心の中でつぶやく。複雑な流れの中で、細い糸はしなやかにくねりながら溶け込んでいく。
「じゃあ、細ければ細いほどいいんでしょ?」
釣り姉は首を横に振った。
「実は、そういうわけでもないんだ。細いほど扱いが難しくトラブルが出やすい。結果的に釣っている時間より絡まりを直す時間のほうが長くなることもある」
「それじゃあ、"今"みたいじゃない!」
「そうなんだ。だからこそ、もし鈎をバラで買ったなら、不慣れなうちはちょっと太めのラインで十分さ。具体的には、最初は0.4号で、慣れてきたら0.2~0.3号だな。とはいえ、ハリス付き鈎はハリスの太さを選べないから、気にする必要はないさ」
質問すると、はっきりとした数字がすぐに返ってくる。ちょっとの違いが、こんなに意味を持つとは思わなかった。太さの選択ひとつが、楽しさと苛立ちの分岐点になるのだろう。
その考えに至ったとき、1つの疑問が脳裏に零れ落ちた。
「ところでさ、ラインっていろんな材質があるじゃない? やっぱりフロロカーボンがいいのかな?」
「……そーだなぁ。フロロが良いという人は多いな。でも、正直言えば適切な太さならなんでもいいと思っている。だって、アタリはウキが拾ってくれるしね。だからナイロンでもまったく問題ないはずさ」
拍子抜けしたような気持ちと同時に、どこか安心する。高価な道具でなくてもいいのだと。
「それじゃあ、釣り姉のお勧めはナニ?」
「……ポリエステルのホンテロンなんてどうだ? 安くて細くて強い。それにコシがあるから、手でハリを結びやすいんだ」
「へえ……」
思わず声が漏れる。結びやすいという言葉に心が引かれる。これまで糸と格闘して指先をいらだたせた記憶が蘇る。
「ところで値段は? 道糸みたいに、高いほど高感度とかないの?」
「いやいや、繰り返すけどアタリはウキが取るし、そもそも仕掛けを自然に流すことが多いから糸フケしていることが多い。さらに底にべったりつけないから、スレ強度なんて気にする必要はない。だから、本当は高感度・高耐久なラインは不要なのさ」
と言われても――。
釣具屋の什器を埋め尽くすラインの山。
にわかには信じがたい。
「でも、お店にはいろいろな価格帯と種類があるけど?」
「その気持ちはわかる。だけど、小物釣りは簡単な釣りさ。だから、値段はおまじない程度だと思ったほうがいいかもな」
その言葉に、胸の中のもやもやが少し晴れる。財布も、少しは安心できそうだ。
「むしろ大事なのは扱いやすさ。清流の小物釣りじゃ小さなハリを極細のハリスで、しかも手で結ぶことが多いからな」
「扱いやすさ?」
首を傾げた。
「そう。結びやすさと言ったほうがいいのかな。もっとも、これは人によって好みが分かれる。あたしはハリが強いポリエステルとかフロロが好きだな。道糸はナイロンが好みだけどね」
風がまた吹き抜け、草むらがさざめいた。釣り姉の言葉が頭の中に残響のように響く。感度と値段、そのバランスをどう選ぶか。それは魚とオレの小さな駆け引きに直結するはずなのだが……。
だが、意に反するように話をまとめた。
「とにかく、柔らかい述べ竿とウキを使った釣りなんだ。ラインにこだわらなくても、そのどちらかが補ってくれるから、問題は生まれないだろうなぁ」
小さな金具の役割
木々の影が水面に長く伸び始めた。
釣り姉がウエストポーチからいくつかの個袋を取り出すと、眼前でちらつかせて笑った。
「最後は金具の話だな。これは、この釣りではハリスと道糸を結ぶために使うんだ」
「あっ! これ知ってる!」
「それは自動ハリス止めさ。既製品の仕掛けセットについていたから知っていると思うけど、糸を通すだけでハリスが止まる便利な道具さ」
「でも、なんかちょっと大きいような?」
「実は、小物釣りで使うハリスはとても細い。だから普通に売っているものだと大きくて抜けることがあるんだ。なるべく小物釣りやワカサギ用の極小サイズの自動ハリス止めを使うといい」
パッケージの中にある黒い金具たちが、太陽の光を浴びてギラリと光っている。
「どうだい? これだけ種類があると迷うだろう? ヨレの取りやすさや金具自体の重さ、さらにはルアーを止めたりハリスを止めたり、釣法に合わせて選ぶものなのさ」
彼女の言うことはもっともだったが、1つ不安なことがある。
「うーん……?」
「どうしたんだい?」
「でも、こういったものは渓流釣りでは使わないって聞いたから。もしかしたら、川の小物釣りでも使わないのかなって。面倒でも通し仕掛けがいいのかなってさ。もちろん、買った仕掛けにはついていたけど……」
「あはははっ! ハリを道糸に直接結ぶ通し仕掛けや、ハリスと道糸の直結は必要ないんだよ」
「どうして?」
眉をひそめると、釣り姉は笑いながら答える。
「何度も言うけど、アタリはウキに出るんだ。ナチュラルに流すには道糸が多少たるむのが大切だから、それを優先すると手で感じることはまれだ。それに、ウキがあるから根掛かりも糸ズレも少ない。つまり、通し仕掛けの強度や感度は不要さ。むしろ大事なのは数釣りだから……さ?」
オレは少し考えて、すぐに理解した。この釣りでは魚が頻繁に掛かる。細い鈎は大物が掛かるとすぐ先端が鈍るし形もゆがむ。だから、何度も交換することになる。
「つまり、ハリの交換しやすい方がいいってこと?」
「その通り。釣れすぎて鈎先が痛む。だから交換のしやすさで金具を選ぶと効率がいい」
釣り姉は小さなサルカンをつまんでオレの手元に差し出す。
「これはサルカン、でもこれは?」
「そうそう、これはサルカン。ヨリモドシってやつだね。そっちはスイベルだな。スムーズに回転するのが特徴さ」
オレは小さな輪っかを指で回す。軽くて頼りなさそうに見えるが、この金属の輪がなければハリスをスムーズに止められないだろう。
――だが、やはり
「やっぱり、オモリより下に重量物があるのって、餌の流れ方とかウキの感度的には大丈夫なのかな?」
「あはは! 諦め切れないかな? それならマルカンだね!!」
1つパッケージを手渡されたので太陽に透かすと、5mmにも満たない小さなドーナッツ状の円盤がぎっしり詰まっている。
「こういった、軽量な超小型の金具を道糸の先につけておけば、流れも邪魔せず、青年のいう『感度』も生かしつつ、さらにハリス交換も楽だろう?」
たしかに、これなら繊細な仕掛けとマッチしそうだと納得したと同時に、1つの疑問が生まれた。
「ところで、全部クリンチノットで結ぶの?」
「いや、八の字結びでチチワを作り、金具と糸をチチワ結びって方法で止めるのさ。簡単で交換もラクなのさ」
延べ竿の糸ヨレの解決法は次回
すっかり陽は高く上り、橙色に染まる陽炎を受けた水紋が、ギラリギラリと揺れている。どうやら、随分と長い時間話し込んでしまったらしい。だが、未だ解決しない問題があるのだ。
それを最後に話を終えることにした。
のだが……。
「それにしても、不思議なことが多すぎる。スピニングリールを使えば少しずつ糸がヨレ、いつかは絡まると聞いたことがある。でも、オレが使っているのは延べ竿。どうして道糸にハリス、こんなにもラインのトラブルが多いのかなぁ……」
川面を見つめていた釣り姉は、こちらの顔をのぞき込むと吹き出すように笑い始めた。
「うははは!」
「そんなに、笑うことなんですか?」
「いやいや、ごめんごめん。よっぽど夢中になって竿振ってんだなってな」
「え?」
「実はな、それはこの釣りでよく起きるトラブルなんだ。仕掛けが軽いから、送り込むときはどうしてもサイドキャスト気味になる。そうなるとどうしても竿を捻るからラインがヨレる。それを同じ場所で何度も繰り返すものだから、最後は爆発するように糸が絡まるのさ!」
「じゃあどうすれば!」
釣り姉はにやりと笑い、ふわりと羽ばたいた。
「おっと! もうこんな時間だ!」
次の瞬間、彼女の姿はアオサギに変わり、太陽を背にして川風に乗って飛び去っていった。
ラインのトラブルの根本的な原因は未だ抱えたままだが、仕掛けの作り方さえわかればこちらのもの。どこかほっとした気持ちが生まれた。
今日教わったこと、覚えたこと、全部が少しずつ自分の釣りに返ってくるはずだ。
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| ・秋になれば、良型が期待できるシーズンとなる |
まとめ
釣りに欠かせない道具のひとつが「鈎(つりばり)」と「ハリス」です。とてもシンプルな組み合わせに見えますが、この小さな違いが釣果やトラブルの多さを左右するのだから、実は奥が深いのです。
まず「ハリ」。初心者さんなら、市販のハリス付き鈎がおすすめです。袋から取り出して道糸に結ぶだけなので、とにかく手軽。200円前後で6本ほど入っていて、何度交換しても大きな負担にはなりません。
けれど、釣りに慣れてくると「自分でハリにハリスを結んでみたい」と思うもの。種類や号数を自由に選べ、コストも抑えられ、満足感も得られるからです。
次に「ハリス」。道糸よりワンランク細い糸を使うのが基本です。理由は大きく二つ。ひとつは根掛かりしたときに切れやすく、仕掛けの回収がしやすいこと。そしてもうひとつは、水中で目立たず魚に警戒されにくいことです。ただし細ければ細いほど良いわけではありません。あまりに細いと絡まりやすく、結局釣りよりもトラブル解消に時間をとられてしまうのです。慣れないうちは0.4~0.5号くらいから始めてみると安心です。
素材についても気になるところですが、小物釣りならナイロンでも十分ですが、扱いやすさや結びやすさを重視するとより快適です。そういった点では、フロロやポリエステルはコシがあって結びやすいので、挑戦したい方にはおすすめです。
小さな道具の違いが、快適な時間とストレスの時間を分けます。最初は無理せず、徐々に慣れていくことが一番。あなたの釣りをもっと楽しくしてくれる「ハリとハリス」、次の釣行でぜひ意識してみてください。




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